家族信託の
必要性・メリット

現代の日本は、世界でも類を見ないほどの高齢化社会であり、それに伴い認知症患者数や要介護認定数は増え続けています。平成27年の段階で65歳以上の認知症患者の推定者は約520万人で、平成32年には600万人を超えることが予想されています。

このように認知症やそれに関連することは、テレビや新聞で見ない日は無いといっても過言ではないほど取り上げられることの多い話題ですが、では実際に認知症になった場合何が問題になるのでしょうか。

家族信託の必要性

認知症になってしまった場合、普段の生活に支障が出てくるのはもちろん問題ですが、何より問題なのはご自身の財産の管理が難しくなることです。例えば、預貯金の引き出しができなくなり、不動産や株式等の売買、自宅の建替え、修繕、それに伴う借入もできなくなります。
また、今現在お持ちの財産を本来使う必要のないことで著しく消費してしまう等して、ご自身や子供のために貯蓄しておいた財産を散財してしまう場合もあります。

このような問題を解消させる手段として、成年後見制度が以前から存在していますが、この成年後見制度は融通が非常に効きづらい制度なのです。
なぜなら、成年後見の場合、ご自身が認知症等になってからでしか申立てができないため、誰に財産管理を頼むかを指定できず、仮に親族が財産管理を行うこととなっても、弁護士や司法書士等がその監督人としてつくことになります。

また、後見人が管理をする財産はご自身がお持ちの全ての財産になり特定の財産だけを管理してもらうこともできません。成年後見はあくまで財産保護、つまり財産をなるべく動かさず、現状維持を目的としていますので、相続税対策としての生前贈与やアパート建築はもちろん、生命保険の加入や株の売買等もできません。

家族信託はそういった成年後見ではカバーしきれない部分を補える制度ですので、自分で築いた財産を将来にわたってどのようにしていって欲しいかを決めておきたい方には非常に適した手段です。

家族信託のメリット

家族信託は、ご自身の意思がはっきりしている時にしか設定できません。その代わり、その時のご自身の意思を反映させるには非常に適した制度です。まずは法定後見制度との比較を簡潔にまとめました。

  • 始まる
    タイミング
  • 終了する
    タイミング
  • 管理される
    財産の範囲
  • 財産の
    管理方法
  • 財産管理状況
    の報告
    (後見人、受託者が行います)
  • ご自身以外
    の関与
  • 報酬として
    かかる費用

家族信託

  • 始まる
    タイミング
    自由に設定が可能。
  • 終了する
    タイミング
    自由に設定が可能。
    (ご自身の死後に継続させることも可能。)
  • 管理される
    財産の範囲
    ご自身が指定した財産のみ。
  • 財産の
    管理方法
    ご自身が望む方法で、運用・管理・処分を任せることが可能。
  • 財産管理
    状況の報告
    (後見人、受託者が行います)
    年1回委託者への報告義務あり。家庭裁判所等への報告は不要。
  • ご自身以外
    の関与
    最初の設定の時以外は、信頼のおける受託者のみの関与。
  • 報酬として
    かかる費用
    受託者の報酬は無償が前提ですが、自由に設定できます。その他は最初の設定の際に専門家に支払う費用のみ。

法定後見制度

  • 始まる
    タイミング
    判断能力の低下後、家庭裁判所の審判がおりてから。
  • 終了する
    タイミング
    ご自身の死亡により終了。
  • 管理される
    財産の範囲
    所有する全ての財産。
  • 財産の
    管理方法
    財産保護を目的としているため、どうしても必要になった時以外は財産を動かせない。
  • 財産管理
    状況の報告
    (後見人、受託者が行います)
    毎年家庭裁判所への報告義務あり。作成する書類も煩雑です。
  • ご自身以外
    の関与
    基本的に、弁護士、司法書士等の専門職が何らかの形で関与し続けます。
  • 報酬として
    かかる費用
    申立てにかかる費用+専門家に頼んだ場合、月平均2~3万円がご自身の存命中はずっとかかります。

その他細かい相違点は多々ありますが、ご自身の意思の反映度合い、そして費用の面でいうと家族信託は後見制度と比べると非常にメリットがあるということが分かると思います。

ただし、後見制度と異なり、身上監護の権限はありませんので、ご自身が認知症になり訪問介護の方との契約や入院手続きといったことは受託者ではできません。ただ通常このような手続きは、ご自身の身近な親族の方等ができることですので、この手続きのためだけに後見制度を利用するのではなく、ご自身の子供や配偶者である受託者が行う方が合理的です。

次に遺言と比べると、遺言というのは基本的にご自身の財産を誰に渡すかという、一代限りの承継の指定しかできませんが、家族信託を使用すると、二次相続以降つまり例えば自分の孫の代以降までの財産の承継先の指定が可能になります。

この特徴を利用すると、ご自身の配偶者の方にまずは全ての信託財産を承継させ、配偶者の方が亡くなった場合、ご自身の特定の子供や兄弟へ承継させることも可能ですし、まずは長男へ承継させ、長男一家に子供がいないような場合は、次に二男の子供へ承継させたいといった要望にも応えることができるようになりました。

また、障害をお持ちのお子様がいらっしゃる場合も、財産を安心して託せる方さえいれば、その方に財産を管理してもらい、ご自身が亡くなってしまった後もお子様に必要なだけ定期的に財産の給付を行うといったことが可能です。そして最終的にお子様が亡くなられた場合は、お世話になった施設や世話人に対して財産を与えることもできます。

こういったことは、今までご自身の財産を承継される方に遺言書を書いておいてもらうくらいしか行う方法がありませんでしたが、家族信託ができたことでより確実に実現させることが可能となりました。

このように、家族信託は後見制度よりも柔軟に財産管理方法について設定ができ、かつ遺言よりも長期に渡りご自身の資産承継先を指定できるというメリットがあります。